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  ニュース     2020/05/22 18:59

中国:20年GDP成長目標設定せず、雇用など「六保」重視=全人代 無料記事

 中国北京市の人民大会堂で22日、第13期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第3回会議が開幕した。李克強首相は冒頭の「政府活動報告」で、2020年の国内総生産(GDP)成長率目標を設定しない方針を表明。新型コロナウイルスの世界的な感染状況、経済・貿易情勢の不確実性が大きく、予測困難な要素が多いためと説明している。報道によると、政府活動報告で成長率の数値目標を提示しなかったのは、1990年の設定開始以降で初めて。19年は成長率目標を「6〜6.5%」に設定しており、実績は6.1%だった。
 新型コロナ流行を受けて足元で経済成長率がマイナスに落ち込む中、今年の全人代では「六保(6つの確保)」が重要課題として提示された。「六保」とは、今年4月に開かれた共産党中央政治局会議で初めて提起されたスローガン。「保居民就業(雇用を保つ)」、「保基本民生(国民生活を保つ)」、「保市場主体(市場主体を保つ)」、「保糧食能源安全(食料・エネルギーの安全を保つ)」、「保産業鍵供応(産業サプライチェーンの安定を保つ)」、「保基層運転(社会末端組織の運営を保つ)」という内容だ。李首相は政府活動報告の中で、この「六保」を実現してこそ、経済の基盤を安定させることができると強調した。
 「六保」の実現に向け、財政、金融さまざまな面で政策対応を強化していく。政府活動報告によれば、うち財政政策について、対GDPの財政赤字比率を「3.6%以上」とする方針だ。報道によると、同比率が3%を超えるのは統計を遡れる範囲で初めて。また、財政赤字に算入されない特別国債を13年ぶりに発行する方針が示された。ほか金融政策については、預金準備率や金利の引き下げに言及しており、昨年の政府活動報告に比べてより具体的な内容となっている。
 全人代は例年3月に開催されるが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて異例の延期が決定。会期も28日までの7日間と、例年(10日程度)より短縮される。期間中、さまざまな法案が議題に上がる予定だが、中でも注目を集めているのは“香港版国家安全法”。香港での国家分裂や中央政府転覆などの行為を禁じるという内容だ。全人代報道官は21日の記者会見で、「香港は分離することのできない中国の一部だ」と強調し、「香港での国家安全維持のための法制度と執行メカニズムを国家レベルで確立する」と述べている。
 同法案に対しては米国が強く反発しており、トランプ大統領は21日、導入されれば強硬に対処する方針を示している。一方、米国との貿易摩擦に関して政府活動報告では、「第1段階の合意を共同で実行する」と言及するにとどめた。
 政府活動報告で示された政策の主旨は次の通り。
【数値目標】消費者物価指数(CPI)の抑制目標は3.5%前後(前年目標は3%前後)とする。雇用面では、新規就業者数を900万人以上(同1100万人以上)、都市部の登録失業率は6%前後(同4.5%以下)、都市部の調査失業率は5.5%前後(同5.5%前後)を目指す。輸出入は安定と質向上を目指し、国際収支の基本的にバランスの取れた状態を目指す。
【財政政策】積極的な財政政策をより積極化し、効果的なものとする。財政赤字の規模は前年比で1兆人民元増加する見込みで、同時に防疫対策として1兆人民元の特別国債を発行。これら2兆人民元はすべて地方に回す。
【金融政策】穏健な金融政策をより機動的で適度に行う。預金準備率や金利の引き下げ、再融資などの手段を総合的に活用し、広義マネーサプライ(M2)、社会融資総額の伸びを前年比で拡大させる。人民元相場を合理的でバランスのとれた水準で基本的に安定させる。
【雇用安定】さまざまな手段を通じて雇用の安定・拡大を図る。今年の新卒生(874万人)に対し、学校・地元政府は就業サービスを途絶えさせないようにする。20〜21年の2年間で延べ3500万人以上の職業技能訓練を行う。
【中小企業支援】中小企業の借入(元金・利子)返済猶予措置を21年3月末まで再度延長する。国有大型商業銀行による小規模企業向け融資については、前年比で40%以上の伸びを目指す(前年目標は30%以上)。
【企業負担の軽減】増値税(付加価値税)の税率、社会保険料率の引き下げを継続し、これによる新たな減税・費用引き下げの規模を5000億人民元とする。また、公共交通・運輸、外食・ホテル、旅行・娯楽、文化・スポーツなどサービス業の増値税減免、「民航発展基金」「港湾建設費」の引き下げといった措置を20年末まで延長する。以上の措置により、企業の負担軽減の規模は年間で2兆5000億人民元に達する見込み。このほか、電力コスト軽減を図り、工商業向け電気料金引き下げ措置(5%)を20年末まで延長する。
【内需の拡大】雇用の安定と住民の収入増による消費マインドの引き上げを図る。外食、小売、文化、旅行、家事サービスなどの復興・発展を後押しし、オンライン・オフラインの融合を図る。
【投資の拡大】地方政府の「専項債(公益事業向け資金調達を行う特別地方債)」発行枠は3兆7500億人民元とし、前年比で1兆6000億人民元拡大する。「専項債」による調達資金をインフラプロジェクト資本金に充てる際の上限規制を緩和し、より多くの資金を充当できるようにする。中央予算内では6000億人民元を投資する。投資先については、次世代通信ネットワーク、5G応用、新エネルギー車普及推進とその充電設備設置、産業レベルアップ支援など「新インフラ」の建設を強化。このほか、老朽小区(団地)3万9000件の改造を進め、エレベーター設置などを推進する。
【不動産政策】「住宅は住むためのもので、投機の対象ではない」との基本方針を堅持した上で、都市ごとの政策を実施し、不動産市場の安定かつ健全な発展を促す。
【対外開放】外資参入のネガティブリストを大幅に縮小すると同時に、越境サービス貿易のネガティブリスト制度を導入する。自由貿易試験区により大きな自主権を付与するとともに、「海南自由貿易港」の建設加速、中西部エリアでの自由貿易試験区の増設などを図る。


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